医療機器に用いられる材料は、熱・薬液・放射線などの滅菌工程や、使用環境での材料劣化が懸念されるため、劣化特性を把握することが重要です。特に高分子材料は、材料や滅菌法、使用環境により劣化メカニズムが異なることから、適切な手法を組み合わせて解析する必要があります。
当社は、高分子材料の豊富な分析経験を活かし、医療機器の特性に合わせた分析提案、解析を行うことで製品の耐久性・信頼性評価をお手伝いします。
化学構造変化の観測
フーリエ変換-赤外分光分析(FT-IR:Fourier Transform Infrared Spectroscopy)は試料の化学構造(官能基)により吸収する光の波長が異なることを利用して、有機物の定性や構造変化を解析することができます。
材料劣化の解析例として、加熱試験前後のスチレン系ゴム材料表面のスペクトルを比較した結果を示します。加熱が長時間になるほど官能基の変化(C=O, O-Hの出現)が顕著となり、酸化劣化が進行していることが分かります。
分子量変化の観測
熱重量測定(TGA:Thermal Gravimetric Analysis)は加熱に伴う重量変化を観測することができます。
一般的な高分子材料のTGA測定では分子量が低いほど低温側から熱分解が開始することが知られており、分解開始温度や10 wt%減量温度が低分子化劣化の一つの評価指標とされています。
材料劣化の解析例として、放射線照射前後のポリカーボネートのTGA曲線を比較した結果を示します。放射線照射品の分解開始温度は未照射品に比べて低下していることから、低分子化が進行している可能性が考えられます。
融解挙動と結晶性の評価
示差走査熱量測定(DSC:Differential Scanning Calorimetry)は試料の吸熱・発熱に伴う熱流の変化を検出し、高分子材料の相転移(ガラス転移、結晶化、融解など)や結晶性を評価することができます。
材料劣化の解析例として、放射線照射前後のポリプロピレンのDSC曲線を比較した結果を示します。放射線の種類によって融解温度やピーク形状に差異が確認されました。これは、放射線照射により分子量や結晶構造が変化したことによるものと考えられます。
酸化劣化のしやすさの評価
高分子材料は、大気中の酸素により酸化劣化が進行することが知られていますが、その酸化劣化のしやすさを簡便に比較するには2つの手法があります。
示差走査熱量測定(DSC)では、窒素雰囲気で昇温した後、酸素雰囲気に切り替えることで、試料の酸化に伴う発熱が始まるまでの時間(酸化誘導時間:OIT)を観測します。
化学発光法(ケミルミネッセンス)では、酸素雰囲気で加温しながら測定することで、試料の酸化に伴う急激な発光量の増加を観測し、酸化誘導時間:OITを求めます。いずれの手法もOITが短いほど酸化されやすいことを利用して酸化劣化のしやすさを試料間で比較することができます。
材料劣化の解析例として、混練時間が異なるポリプロピレンの酸化劣化のしやすさを評価した結果を示します。DSC・ケミルミネッセンスのいずれの手法でも、混練時間が長いほど酸化されやすいとの結果が得られました。
劣化評価の項目の一覧
分類 | 評価内容 | 分析手法 |
---|---|---|
形態観察 | ブリード、亀裂、孔発生等の形状変化 | 光学顕微鏡 走査型電子顕微鏡(SEM) |
表面粗さの変化 | 共焦点レーザー顕微鏡 原子間力顕微鏡(AFM) |
|
組成分析 | 化学構造(官能基/組成など) | 赤外分光法(FT-IR) レーザーラマン分光分析 X線光電子分光(XPS) 核磁気共鳴分光法(NMR) 固体核磁気共鳴分光法(固体NMR) 飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS) 熱分解ガスクロマトグラフィー(Py-GC/MS) |
添加剤含量変化 | ガスクロマトグラフィー(GC) 高速液体クロマトグラフィー(HPLC) 熱分解ガスクロマトグラフィー(Py-GC/MS) 飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS) |
|
分子量 | ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC) 熱重量測定(TGA) |
|
酸化劣化度 | 化学発光法(ケミルミネッセンス) | |
ラジカルの量・種類の追跡 | 電子スピン共鳴法(ESR) | |
結晶化度 | 示差走査熱量測定(DSC) X線回折法(XRD) |
|
高次構造解析 | 結晶性変化 | X線回折法(XRD) レーザーラマン分光分析 偏光顕微鏡 |
分子運動性 | パルス核磁気共鳴分光法(パルスNMR) | |
結晶・非晶の変化、モルフォロジー | 透過型電子顕微鏡(TEM) 走査型プローブ顕微鏡(SPM) |
|
ラメラ構造、長周期の変化 | X線小角散乱(SAXS) | |
物性評価 | 強度、弾性率 | 機械試験 ナノインデンテーション |
粘弾性 | ナノインデンテーション 動的粘弾性(DMA) レオメーター |
|
光学特性 | 分光光度法 黄色度(YI) |
|
相転位温度 | 示差走査熱量測定(DSC) 熱重量示差熱分析装置(TG-DTA) |
|
劣化予測 | 酸化劣化のしやすさ | 化学発光法(ケミルミネッセンス) 示差走査熱量測定(DSC) |
加速試験/再現試験 | 劣化の要因検証・耐久性評価 | 恒温恒湿試験 塩水噴霧試験 耐候性試験 ガス腐食試験 |
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